電子書籍が本当に解決するものとは?

kaiketsu

 先日の記事で「2010年に電子書籍元年があり、2011年には市場がブレイクすると思った」と書きました。現時点では、キュレーション市場のような活況は呈していません。しかし私は、電子書籍を「スマートフォン向けのデジタルコンテンツ」の観点から捉えなおせば、ブレイクする可能性は高いと考えます。

 今回は幾つかの観点から「電子書籍の未来」について書いてみようと思います。それを考えるには、電子書籍と言うメディアが持つ本質的な要素を見直す必要があります。

大ヒットしたサービスの共通点

 大ヒットした商品・サービスに共通するのは、ユーザーが見た時「そうそう!こんなモノが欲しかったんだよ!」と思う点です。早すぎても、遅すぎても大流行につながらないのは、人々の欲求は日々変わっていくからです。

 キュレーションアプリが流行っている土壌には、スマートフォン、ソーシャルメディアの普及がありますが、前提としてYahoo!やGoogleが作った「検索する」という行為に対し「スマホでの検索が面倒になってきた」という隠れたニーズもあったと思います。そういった時代の流れを無視して、新しい流行は生み出せないのでしょう。

電子書籍が解決するものとは?

 では、人々は電子書籍を見て「そうそう!こんなモノが欲しかったんだよ!」と思ったのでしょうか?思った人もいるでしょう(もちろん、私もそのうちの一人です)。

 でも、ホームページやブログが初めて誕生した時に比べれば、インパクトは少なかったと思います。私はその理由を長年考えてきました。そして、一つの仮説を立てました。

 電子書籍が(思ったよりも)ブレイクしていないのは、「誰の、どんな問題を、どうやって解決するか?」が上手く噛み合っていないからではないでしょうか。

 こう思ったのには理由があります。ある時、私の周りの「本を読む習慣が無い人」に電子書籍の魅力を伝えてみました。しかし、みんな一様に「安いのは良いよね。でも、本読まないし」という結論で話が終わってしまいました。何も知らない人にとって、電子書籍は「紙書籍の延長」でしかないのです。

 そして同時に、出版業界に携わっている方ほど、電子書籍を紙書籍の延長として捉えています。決して交わることのない「本を読まない人」と「本を仕事にしている人」ですが、「電子書籍=紙書籍」と考えている点は同じでした。

 この状況で、電子書籍を「誰の、どんな問題を、どうやって解決するか?」に当てはめても、

 誰の?: 本が好きな人たち

 どんな問題を?: 書店に買いに行くのは面倒くさい、もっと安く買いたい、家に本を置いておくスペースがない

 どうやって解決する?: 紙書籍をデジタル化してダウンロードによる提供

 となり、あくまで「紙書籍」からの解決策しか出てきません。そして「紙書籍をデジタル化してダウンロードによる提供」の部分を、改善していくことが「電子書籍の進化」の定義となります。これでは本を読まない人たちが、市場に入ってくることもありません。

インディーズ作家が描いていた世界

 このような話になると、インディーズ作家の居場所はなくなります。話は常に紙出版の延長線上であり、私たちがどこかで期待していた「革命」的な匂いなど、すべて吹き飛んでしまいます。

 私たちが心待ちにしていたのは、誰もが自由に出版をし、ユーザーはスマホでアプリをダウンロードする感覚で読み、これまで読書をしなかった層も市場に入ってきて、100万どころではなく400万、500万ダウンロードの「モンスター電子書籍」が登場する世界ではなかったでしょうか。

鍵はスマホの普及

 そんな世界が実現したら、まさに「出版革命」と呼ぶに相応しいし、出版市場全体が健全に発展していくと思います。そして、この世界が実現した時、本を読まなかった人たちが、電子書籍を「書籍とは違うもの」として利用するようになります。

 鍵は、スマートフォン普及です。スマホ契約数は、2010年:900万契約、2011年:1,200万契約、2012年:3,500万契約、2013年:6,000万契約、2014年:7,500万契約となっています(データはMM総研より引用)。

 電子書籍は、スマホで快適に読めるように作られた側面があります。Amazon、Apple、楽天、LINE等の企業も基本的には、スマホ・タブレットで読むことを想定しています。つまり、電子書籍市場は、スマホの普及なしには始まっても無かったのです。スマホが本格的に普及したこれからが、本当のスタートです。

電子書籍が本当に解決するもの

 スマホが普及した時、「電子書籍が解決するもの」に変化が生じます。なぜなら、電子書籍は他のどのメディアにもない要素があり、その代替がきかないからです。

 他にはない要素とは、「体系化した情報を一度に伝えられること」「誰でも自由に出版することができること」です。

 この2つの要素を満たすスマホ向けメディアは存在しません。今後、スマホユーザーは、徐々に情報の質を求めるようになります。

 キュレーションアプリからライトに入った層も、「もっと自分の悩みを的確に解決してくれる情報」を求めるようになります。その時、ユーザーの悩みを解決するのに、最適なメディアが「電子書籍」です。

 そういった意味で電子書籍は、日本古来伝わってきた情報伝達手段であり、他のITサービスのように超革新的なものでは無いかもしれません。馴染みのあるものだからこそ、スマホ時代においてもユーザーの悩みを的確に解決できる強力なメディアに容易になり得ます。ただし、前述の「本を読まない層」を参加させる為には、何かインパクトのある出来事やサービスが必要です。

 出版が簡単になったといっても、書籍を書くことは一朝一夕ではできません。ブレイクの瞬間を見越して、今から着実に準備をしておくことが、私たちインディーズ作家が成功を掴む近道だと考えます。